「マニフィカト」、マリアを讃えるこの歌は、多くの名作を古今東西の作曲家たちに残
させてきました。今回はルネッサンス時代から現代にわたる、４つの作品を取り上げまし
た。その時代その様式そしてその作曲家の個性を通し、時代を超えたマリアへの賛歌が朗
らかに歌われています。

　まず、ルネッサンス時代にローマで活躍したアネーリオは、かのパレストリーナに学び、
教会の楽長を務めた作曲家です。続くパッヘルベルは、いわゆる「パッヘルベルのカノン」
があまりにも有名で、他の作品についてはほとんど知られていませんが、１７世紀にドイ
ツでオルガニスト・作曲家として活躍し、ドイツバロックのオルガン音楽の発展の上で、
バッハの先人として重要とされています。次のチマローザはモーツァルトとほぼ同じ時代
に活躍したイタリアの作曲家です。オペラ作曲家として名声が高く、ヨーロッパ各地でそ
の作品は演奏されました。最後のエストニア出身のペルトは、アルベルネで３年前に取り
上げ、その透明感のある美しいハーモニーに魅了させられた作曲家です。この作品は１９
８９年に書かれました。美しい流れの中にときおり突き刺すような不協和音が緊張感を作
りながら、深い祈りの世界を作り上げていきます。

　最近注目を浴びているツェムリンスキーは、シェーンベルクの先生としてまた友人とし
てシェーンベルクの作品の初演を手がけるなど、１９世紀末から２０世紀初頭にヨーロッ
パで活躍をしました。合唱曲については、これまで出版もほとんど無く演奏を聴く機会も
ありませんでした。この２つの曲は春を迎える喜びを歌った作品で、現代の作曲家とは思
えないような、ロマンティックな曲に仕上げられています。

　昨年に続き取り上げるドヴォルザークの「六つのモラヴィアの歌」は、モラヴィア地方
の民謡の原詩をもとにして作曲された「モラヴィア二重唱曲集」から、同郷のヤナーチェ
クが６曲を選び、二重唱部分はそのままに男声パートをつけて混声４部の作品にしたもの
です。もとになった「モラヴィア二重唱曲集」は、ブラームスに認められ、ドヴォルザー
クの名前を世界に広めることとなった出世作として知られています。

  ステージの後半は日本の曲です。川口耕平作曲、混声合唱・朗読・ピアノのための頌歌
「こんな美しい朝に」は、最近テレビなどにより多くの人に知られるようになった『瞬き
の詩人』水野源三の詩によるものです。川口さんは、これまでに数多くの水野源三の詩を
歌曲としておられます。今回その作品の中からアルベルネのために頌歌集を作って下さい
ました。川口さんとはピアノの協演というお立場で長いお付き合いをいただき、そのご縁
もあって、こんなすばらしい曲を戴けましたことをとても喜んでいます。純粋な心から湧
き出る敬虔な言葉に美しい１０のメロディーがつけられています。

　川口耕平さんといえば、名歌手タリアヴィーニの伴奏者をつとめられたことで有名です
が、合唱ファンならば、中田喜直の女声合唱組曲「美しい訣れの朝」初演の際のピアニス
トとしてご存じの方も多いと思います。

  最後のステージは、三善晃の編曲による小学唱歌で、四季を代表する曲が取り上げられ
ています。もともと児童合唱のために編曲したものを混声用にしたということですが、や
さしいメロディーにつけられたすてきなハーモニーとコンチェルトを思わせるような華麗
なピアノが響き合います。

　※ちなみに当合唱団指揮者の池田明良と、三善晃はおない年、ペルトは二つ年下ですが、
　　ともに１９３０年代の生まれです。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（濱田和昭）