「空・道・海」は昭和32年芸術祭参加記念作品として書いたもので、東京混声合唱団
によって初演され、文部大臣賞を受賞した。音楽の中の日本語の問題点、特に「無声音
の取り扱い」について私自身の研究を新しい観点によって試みた作品である。

　「空」：大らかに描かれた各声部の組み合わせに追いかけとハーモニーの流れによる
　　　　　効果を盛り込んだ曲。
　「道」：はたらきものと、なまけもののの性格の対比を歩くリズムの中に描写した曲
　　　　　である。
　「河」：旋律的な部分とリズミカルな部分が交錯する中に、ソプラノとテノールがオ
　　　　　クターブで歌われる手法を織りまぜた軽い曲である。

　みなさんの演奏、大いに期待しております。
　「ソラ（空）ドーカ（道河）な−−−」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　福井　　文彦



　「子どもの季節」は1965年、芸術祭参加のためＮＨＫから委嘱されて書いた作品です。
同様に子供の詩に依った前作「小さな目」では、音は詩の各行に添い、行間を埋める、
つまり、作詞者の感情の速度に従っています。「子どもの季節」では、作詞者のイメー
ジを、私なりの感情の速度に組み入れ、織り直してみようと思いました。
　「嫁ぐ娘に」は1963年、これも芸術祭参加作品として朝日放送の委嘱を受け、高田さ
んと仕事を共にしました。
 私にも、私の、小さい歴史があり、「戦争」はそこに積まれた一つの巨きい石です。
人間のあいだでは終わったものが、しかも、一人一人の人間の中に閉じ込められていて、
消えない。私の中に、やめて、という、私の声があります。その様な、私の日常を、詩
はすくいとってくれていました。
                                                                  三善　　晃



 「都会」は、第21回芸術祭参加作品としてＮＨＫの委嘱により、1966年８月に作曲し、
同年の秋、指揮・森正、合唱・東京混声合唱団、ピアノ・三浦洋一、制作・原和孝の諸
氏により放送によって初演され、芸術祭奨励賞を受けた。
　詩は、都会の巨大なメカニズム、その他、外面的な姿と、未来の希望をふくめた内面
的なものまで巾広く表現されており、音楽も、それによって都会の大きなスケールや、
冷たさ、美しさ、ペーソスなどを混声合唱とピアノによって表現しようとした。
　昨年、私の「海の構図」を非常に見事に歌ってくれた、アルベルネ・ユーゲント・
コールが、今後この曲をどう歌ってくれるか、恐らく素晴らしい演奏をしてくれると思
うが、大変期待し、また、楽しみにしている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中田　喜直



黒い歌・序詞

　ジェームズ・ボールドウィン
　あなたが　聖書の文句をもじって
　次は火だ　という題を　あなたの本につけたのは　1963年
　ことし　1967年　デトロイトに燃え上がったのは　その火であるか
　火は燃えあがらねばならないか
　燃えあがらぬうちに　消し止めると
　1960年　ぼくたちはうたったが
　とことん燃えつくしたのちでなければ
　ＹＯＵと　呼びあう日はこないか
　パトリス・ルムンバ
　あなたが　1961年に死なずに　この世界をみていたら
　なにを考え　なにをするだろうか
　あなたが生きていたら　コンゴは　アフリカは
　こんにちどのようなものであるか
　ガーナは　アルジェリアは　そして世界は？
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　林　　　光